2012/10/25

日本中世に何が起きたか

 【書 名】日本中世に何が起きたか
 【著 者】網野 善彦
 【発行所】洋泉社 歴史新書
 【発行日】2012/06/21
 【ISBN 】978-4-86248-967-8
 【価 格】900円

日本史のイメージをごろっと変える網野史学です。今回の副題は「都市と宗教と資本主義」。

日本の資本主義の歴史は意外に古く、鎌倉時代にさかのぼります。もっとも原始的なのは「出挙(すいこ)」。初穂として神殿に捧げられた稲を種もみにして農民に貸出、秋に神への感謝をこめて若干の利息をつけて倉庫に戻します。11世紀には米に関して替米(かえまい)という為替手形も登場していました。

荘園経営の記録が残っていて登場するのが宣深という人物。荘園経営を東寺から請け負って備中の荘園へ行くのですが約束よりも少ない運上金しか納入しません。寺から呼び出しを受けたのですが農民が逃げた、代官への接待費がかかったなど言い訳して、なんとかまけてもらいます。ところが別の人物が倍の契約で荘園契約をやると寺に申し出があり、あっさりとお役御免。なんか不動産経営を委託しているような話で、デベロッパーもしっかり管理しているし荘園経営って、こんな感じだったんですね。


村といってもいろいろなものが手に入り、接待できる居酒屋もあったようで、現在の都市機能そのもの。自給自足だったというイメージが強いのですが、分業制になっていて必要なものは交易で手に入れるシステムになっていたようです。資本主義を担当していたのが神や仏に連なる職能集団でしたが、後醍醐天皇によって天皇の権威が落ちたあたりから差別されるようになります。

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2010/09/24

僕の叔父さん 網野善彦

 【書 名】僕の叔父さん 網野善彦
 【著 者】中沢 新一
 【発行所】集英社新書
 【発行日】2004/11/22
 【ISBN 】4-08-720269-0
 【価 格】660円

「日本の歴史をよみなおす」などで従来の歴史学者がほとんど着目してこなかった民衆や悪党などについて独特の網野史学を提供してきた網野善彦氏。あの史学が生まれた秘話が書かれています。

網野氏が結婚した奥さんの実家が中沢家。これがとんでもない家で、親も子供も皆、議論好きで、またコミュニストでめちゃくちゃ変わった家。ここでいろいろ議論しているうちに網野史学ができていったんですね。単なる叔父さんの思い出話ではなく、どうやって思想が生まれていくかその過程が書かれています。

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2007/06/11

】続・日本の歴史をよみなおす

 【書 名】続・日本の歴史をよみなおす
 【著 者】網野 善彦
 【発行所】筑摩書房
 【発行日】1996/01/20
 【ISBN 】4-480-04196-6
 【価 格】1100円



前作「日本の歴史をよみなおす」の続編です。今回も歴史の常識にまっこうから切り込んでいます。中世というのは歴史で習ってきた世界とはだいぶ違うようですね。

■百姓=農民
これは誤った思い込みで、中国や韓国の留学生が訳すと「普通の人」になるそうです。農民だけでなく小売、サービス、技術者など皆含んでいました。古代から近世まで農人という言葉が使われてましたがいつのまにか廃れてしまいました。


■時国家
前作でも古文書返却の旅で訪れた時国家の話題が出ていましたが、ここは4隻の北前船を持ち、サハリンまで航海していました。また出た利潤を金融業で運用していたそうで、今ならホールディング会社のようなものですね。

この金融業ですがネットワークが張り巡らされ12世紀には国司が出す切下文や切符などの納税令書が金融業者の間で動いていました。現代の手形の原型になります。後醍醐天皇の頃には為替手形が普及していたようです。手数料も距離によって決まっていました。

■荘園の管理は大変
荘園で管理するために代官が任命されていますが、けっこう大変な仕事でした。納入された米や雑穀を市で売りますが、相場ができるだけ高い時に売らなければなりませんでした。運用が悪ければ監査で罷免されるそうです。これではまるでファンドマネージャですね。

国司の使いが来た時などは接待しており、これは必要経費になりました。また報告書を出さないといけませんでしたが、これが何とバランスシートになっていました。江戸の初めの近江商人が簿記を使っていたという話は有名ですが、さらにさかのぼりそうです。

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2005/10/10

日本の歴史をよみなおす

 【書 名】日本の歴史をよみなおす
 【著 者】網野善彦
 【発行所】ちくま学芸文庫
 【発行日】2005/07/10
 【ISBN 】4-480-08929-2
 【価 格】1200円



歴史に関する話題の本です。けっこう思い込みがあるんですね。

■水呑
水呑という言葉がありますが、学校で習ったのは土地も持てず、飲まず食わずの貧しい生活をしているお百姓さんでした。

ところが古文書の研究をしていくと、廻船商人で資産家の人物が水呑になっていました。どうも「土地が持てない」ではなく、「土地を持つ必要がない」が水呑の実態のようです。

■最初の手形
金融業者が国司に米を貸し出す時、担保として、切符(きりふ)と呼ばれる徴税令書などが渡されました。この切符を持って、金融業者がそれぞれの国の蔵へ行くと、米を出すことができました。つまり徴税まで行っていました。

この切符が金融業者間でやりとりされており、今でいう手形の役割もあったそうです。

金融の用語も昔からありました。例えば「相場」は中世から使われている言葉で、場とは「庭」のことでした。市庭で出会って値段を決めたことから生まれた言葉です。

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