【書 名】ボン書店の幻
【著 者】内堀弘
【発行所】白地社
【発行日】1992/9/15
【価 格】2300円
【 ISBN 】4-89359-094-4
ボン書店という名前をご存じですか?
もし知っているのなら、あなたは相当に詩的な人生をおくられており、またシュルレアリズムに相当詳しい方です。
1920年代から1930年代にかけてモダニズムと呼ばれる時代がありました。この時代も後半にさしかかった頃にボン書店という小さな出版社がありました。出版社といっても社員を雇い事務所を設け、というのでありません。たった一人で活字を組み、自分で印刷もして好きな詩集を作っていました。こんな小さな出版社でしたが当時のモダニズム詩人の詩集やシュルレアリズム文献を送り出していました。東洋で初めてプーシュキン全集も出しました。(2巻で後がつづきませんでしたが)そして数年後、彗星のように消えていきました。
ボン書店の本には必ず刊行人・鳥羽茂とあります。どこでいつ生まれた人か分かりません。ボン書店は色々な人の随筆とかに出てきます。
春山行夫
「私は、日本の詩集出版の歴史に一つの美しい伝説をのこした青年について、書きのこしておきたい。昭和8年頃だったか、鳥羽茂という詩の好きな青年が現われて、ボン書店という名で小さな詩集の出版を始めた。書店というとだれもが店を連想するが、彼の場合は単なる象徴にすぎなかった。彼は詩集を出版する目的でどこかに小さな印刷屋に入って、その2階に住み、昼間は印刷を手伝いながら夜や日曜日に
コツコツと自分で活字を拾って.....
彼が、10数冊の詩集を出した後で急に姿を消してしまった。伝え聞くところによると、彼は詩集を出している間に結婚して、細君と二人で仕事をしていたところ、二人とも病気になって田舎で死んでしまったといわれている。彼らの郷里がどこであったか、いつ頃彼らが世を去ったのか、一切のことが分からない」
大正から昭和にかけて銀座のカフェでエリック・サーテイを聴きながら若者が暇をつぶしているかたわらにこの詩集があった。レスプリ・ヌウボウの風の匂をさせながら...
雑誌「サライ」なんかがよく特集している大正モダニズムの世界ですね。小部数で印刷で稼いだ金をすべて本つくりにつぎこんだということですので、著者も送られてきた本を見て、「こんなすごい装丁だとは思わなかった」というような感想だったそうです。「ボン書店の幻」には出版された本や詩集などの写真が載っていますが、すごい装丁です。今ですと、ボン書店の本にすごい古書値がつくというのもよく分かります。これは美術品です。
鳥羽茂の生まれは、どうも岡山あたりであったようで、髪が長くて、今はなくなってしまったVANの石津謙介氏とよく似ていたそうです。岡山第一中学の昭和4年卒が石津で、その前年が鳥羽だったそうで、この二人が1920年後半、レスプリ・ヌウボウの風にふかれながら同じ中学校に通っていました。片方は詩集を初め、片方は天津に渡り洋装店をひらき(ボン書店と同じ年)戦後日本に帰り、若者に圧倒的な人気を誇ったVANを作り出します。
フランスのシュールレアリストと協力してダリ、ブルトン、マン・レイなどに書き下ろしをたのみ本を出版するような若者が今から70年ぐらい前にいて、街にはモダニズムの香がただよい、少女歌劇の水の江滝子がその若者が作った本をアクセサリーのように大事にしていた、そんな時代があったようです。(こりゃやっぱりサライの特集記事のテーマみたいですな。ボン書店をテーマにしてやらないかな?やっぱりちょっとマイナーですかね)
鳥羽茂について調査した本が「ボン書店の幻」です。戦争前というと何かすごく暗いイメージがあるのですが、とんでもないというのがよく分かります。鳥羽茂は昭和14年の夏頃、29歳ぐらいで亡くなったようです。その死亡も皆、風の便りで聞いたようでいつどこでというのも分からないままのようです。
ボン書店についてはこちらにも
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