2005/02/28

イーハトーブ乱入期

 【書 名】イーハトーブ乱入期
 【著 者】ますむら・ひろし
 【発行所】筑摩書房(ちくま新書)
 【発行日】1998/5/20
 【ISBN 】4-480-05756-0
 【価 格】660円



以前、「おうちに帰ろう..シチューを食べよう..」というテレビコマーシャルが流れ、「ひでよし」という太った猫が出ていました。この「ひでよし」の生みの親が著者の「ますむら・ひろし」です。映画「銀河鉄道の夜」の猫の作者と言った方がわかりやすいでしょう。

と言うわけで宮沢賢治について語った本なんですが、実によく調べていますね。

■銀河鉄道に乗り込む日

「銀河鉄道」でジョバンニがザネリたちに冷やかされて、天気輪の柱の丘に着くのは、大体午後8時から8時30分になるそうです。そして夜空には三角標として物語に出てくる夏の大三角形が浮かびます。星座表でこの時刻に夏の大三角形が上に来るのは「8月23日」!

これって花巻の旧盆の日の夜なんだそうです。死者が現世に還ってくるお盆。宮沢賢治は実に周到に物語りの舞台を設定していたようです。そしてお盆の夜なのでジョバンニは現世から来世までカンパネルラを追いかけることができるのです。

そんな、あまりよく知られていない事実を色々と教えてくれる本です。

「ますむら・ひろし」は少年ジャンプの手塚治虫賞に「霧にむせぶ夜」で応募し、準入選になりました。本来なら佳作だったのが、選考委員の一人が強く推したので準入選になったそうです。その選考委員が筒井康隆だったそうで、見る目がありますね。この後が「ガロ」時代です。

■ヨネザアド物語、アタゴオル玉手箱
ガロに連載していたのがヨネザアド物語でイーハトーブからヒントを得てつけた名前です。宮沢賢治が岩手県をイーハトーブと呼ぶのなら、俺は米沢出身だからヨネザアドだとつけたそうです。そして東武野田線の愛宕駅近くに住んだのでアタゴオルとなります。そして「ひでよし」がヨネザアドやアタゴオルの森にいつくことになります。アタゴオルにあった「オクワ(大桑)酒屋」は愛宕にあったカンパ小屋という溜まり場がモデルだそうです。

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2005/01/05

宮沢賢治の葉書

宮沢賢治の葉書

だいぶ古い(「明治時代は謎だらけ」の連載が始まった頃)のですが日本古書通信(799号)に宮沢賢治に関する話題が二つ載っており、そのいづれにも賢治の葉書の話題が載っていました。

■「賢治ブームの秘密 宮沢賢治生誕百年」金子 民雄
東京の古書店から古書目録が送られてきたので、ぱっと開いたらなんと賢治の葉書が1通載っていました。しかも宛先が保坂(賢治の学友で有名)宛ということで驚きます。(保坂宛の葉書はすべて保坂家で保管されて市場に出ません)

ここからは推察になりますが、葉書の日付が大正10年6月26日になっており、この時、保坂は学校の寮にいないはずなのにそこの宛先になっており不審だという内容です。そのあとに本文(生誕100年の話)になるのですが、この葉書1枚の値段が300万円ということであきれかえっています。

■もう一つはそのものずばり「贋物にご用心」二見和彦で
これも同じ葉書が取り上げられております。大正10年には保坂は放校になっており、学校の寮にはいないなどの理由で贋物と断言しています。

研究者の間では贋物が出るようになったのだから、これで賢治も文豪の仲間入ですねと話題になったとか。「何でも鑑定団」の視聴率が高いのも贋物かどうかのスリルを楽しむなどのあるのではと分析入っています。

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2004/08/03

文圃堂 中原中也

昨日、宮沢賢治全集を出した文圃堂について書き込みをしましたが、かなり以前の日本古書通信819号に中原中也の話と共に文圃堂が出ていました。

中原中也が処女詩集「山羊の歌」を出そうとした時に、いくつかの出版社に断わられてたどりついたのが文圃堂です。紹介したのは小林秀雄です。

中原中也は文圃堂で風呂敷包みから原稿を出し、どうしても文圃堂から出してほしい。本文は既にこのようにでき上がっているので、あとは表紙をつけて、できれば箱もつけてほしい。それから装丁であるが「宮沢賢治全集」のようなものが気にいっているので、是非あんな本にしてもらいたい。と切々と訴えたそうです。

中原中也の熱意にほだされた野々上氏(文圃堂主人)は高村光太郎に装丁をたのみ、200部限定で昭和9年12月に出版しました。これが中也の最初の詩集です。

それにしても全く無名だった宮沢賢治の全集を始めて出したり中原中也の処女詩集を出したりととんでもなく先見の目のあった本屋さんですね。

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2004/08/02

文圃堂こぼれ話 中原中也のことども

 【書 名】文圃堂こぼれ話 中原中也のことども
 【著 者】野々上慶一
 【発行所】小沢書店
 【発行日】1999/3/20
 【ISBN 】4-7551-0362-2
 【価 格】2200円

文圃堂と言っても多くの方はご存知ないと思いますが、初めて宮沢賢治の全集を出した本屋として有名です。

■昭和8年頃に詩人の草野心平がまだ食えない時代で銀座通りの喫茶
 店でバーテンダーをやっていました。その頃無名だったが宮沢賢治を高く評価していた草野心平が知り合った野々上慶一をくどき落として全集を出すことになりました。全集と言っても無名だし、とりあえずいいところだけいれようと3冊にしたそうです。

 編集は高村光太郎、宮沢清六、横光利一、草野心平と今考えるとすごいメンバですね。

 最初は千部刷ったそうで、あと2百ぐらい増刷して、なんとか採算はとれたようです。装丁は高村光太郎が好意的に無償でやってくれたそうです。その装丁を見て、中原中也がぜひ俺の本も高村光太郎に頼んで彼の装丁で出してくれないかと頼みこんできたそうで、そして詩集「山羊の歌」が出ることになりました。

 「宮沢賢治全集」も「山羊の歌」も今、古書市に出たらいくらくらいするんでしょうね。

 この後ひょんないきさつから宮沢賢治を読んで、すっかりファンになった十字屋書店から、今度はウチで出したいと話があり、十字屋書店版の「宮沢賢治全集」が出版され、その後、筑摩書房から出されるようになりました。そういえば筑摩からは「新校本宮沢賢治全集」が刊行されていますね。

■昭和の初めにあった「東童」という劇団を創設した宮津という人物
 のところへ野々上慶一がやってきて賢治の全集を芝居にしてくれると宣伝になるのだがということで本を置いていきました。読んでみたが「飢餓陣営」「ポランの広場」も面白いし、「注文の多い料理店」や「セロ弾きのゴーシェ」は人形劇向きだし、「銀河鉄道の夜」や「グスコーブドリの伝記」は映画向きだろうということで「風の又三郎」をやることになったそうです。

■昭和6年に20歳ぐらいで創業された文圃堂ですが、色々な作家
 (その頃は皆食えなかった)のたまり場にもなっていました。中原中也や太宰治、大岡昇平などなど飲んで騒いだ話などたくさん出てきて、面白いですよ。

 出版もやっていましたが本郷帝大(東大)前にあった間口二間、売場面積3坪あまりの小さな小さな本屋でした。出版は2階でやっていたそうです。小さな本屋でしたが日本の出版界に与えた影響はとてつもないものでしたね。


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