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2005/01/14

新宿中村屋 相馬黒光

 【書 名】新宿中村屋 相馬黒光
 【著 者】宇佐美 承
 【発行所】集英社
 【発行日】1997/10/30
 【ISBN 】4-08-774289-X
 【価 格】2800円

新宿中村屋の本です。

旦那の相馬愛蔵は「一商人として」という本を書いていますが、こちらは奥さんについてです。奥さんの名前は黒光(こっこう)と言います。(本名は良)

昔、新宿の中村屋でカリーライスを頼むと必ず蘊蓄をたれる人がいたようで「どうだ、うまいだろう。このなかにはヨーグルトという乳製品が入っているんだ。伝授したのはボースというインド人で、祖国でイギリス人の総督の命をねらった人だ。懸賞金付きで指名手配されて日本に逃げてきたんだが、そのインド人をあの人が救ったという話だ」とその頃まだ働いていた黒光を指して食べたそうです。

ウーン、今度中村屋のカリーライスを食べる時はぜひこういうセリフを言わねば。大阪の阪急地下の店ってまだ、ありましたよね?

それにしても、この黒光という人物は学生時代から色々なことに巻き込まれていたようです。明治女学校に入学した頃に、従姉妹と文士志望の国木田独歩の恋、結婚、破局につきあわされることになります。のちに有島武郎がこの従姉妹をモデルに「或る女」という小説にしています。

相馬愛蔵の書いた「一商人として」(岩波)が中村屋の歴史を淡々と描いていますが、この本は中村屋サロンなど黒光を中心に描いています。もちろんボースの話なども詳細が載っており、昭和19年10月に恩人だった頭山満が死んで、翌年1月にボースが57歳で死んでいます。

昭和19年の7月というと日本軍とチャンドラ・ボースが率いる印度国民軍がインパールから撤退した年で、20年8月は敗戦の年です。ボースだけではなくロシアや韓国などから追われた人々をずいぶん助けていたんですね。関東大震災の時には徹夜でパンを焼け出された人に値上げもせず配り、昭和の天河屋義平と呼ばれたり、義商という名前もありました。

黒光(相馬良)が死んだのが昭和30年で80歳でした。

明治から終戦にかけてを、時代の移り変わりと共に新しい視点を提供してくれる題材を豊富に備えた一冊です。

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