本屋一代記 京都西川誠光堂
【書 名】本屋一代記 京都西川誠光堂
【著 者】松木貞夫
【発行所】筑摩書房
【発行日】1986/11/10
【ISBN 】4-480-85346-4
【価 格】1800円
先日の「青空古本まつり」(京都・百万遍)で荻書房の棚から掘り出してきました。京都の昔の本屋の本を京都で掘り出してくるというのもいいものですね。
明治36年に京都・丸太町通りの熊野神社の手前に西川誠光堂がオープンしました。名物女主人であるハルの物語になっています。これが大正から昭和にかけての時代の雰囲気や学生の様子、また円本騒ぎなど出版界の細かな話まで入っていて実にすごい内容になっています。著者は本当によく調べましたね。
西川誠光堂は元々は老夫婦が貸本屋としてやっていたものを譲り受けたものです。老夫婦が息子夫婦について満州に行くことになり、そこで向かいに住んでいた繊維会社に勤めるビジネスマンが奥さんに相談せずに譲り受けることを決めてきました。店番はもちろん奥さんです。後に主人もビジネスマンを辞めて本屋になります。
本屋なんかやったことのないハル(奥さん)は京都の色々な店をのぞいてみました。店に入ると、ここは女子供が来るような店ではないという感じで、店主がにらんでいる店が多く、あんな店にはしたくないジュンク堂にあるような長椅子を店に置いてみたり色々と工夫をします。
学生がやがて長椅子に座ってたむろし、ハルと世間話をするような店になっていきます。ちょうど市電ができたり、京都大学が学部を充実させていく時期で、やがて貸本屋から新刊書店に転換します。
大正時代から昭和にかけて京大生として学生生活を送ったもので西川誠光堂のハルの名前を知らない者はいないとまで言われるようになります。金がなければツケでもOKとしていましたので、そのまま三高から東大へ金を払わずに踏み倒していくものも大勢いたようです。東大の赤門前でえんま帳を持って見張っていたら一財産できるなと冗談を言っていました。学生が金のないときには店でご飯まで食べさせていた本屋です。
本の中には近衛文麿、西田幾多郎、菊池寛などなどそうそうたるメンバーが出てきます。皆、ハルの世話になったんですね。古本屋から出版にうつる岩波茂雄との交流の話も出てきます。岩波と直取引をする京都でただ一つの書店で学生の人気が高かった店です。知られざる京都の出版界の話などが満載の一冊です。
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