下町の古本屋
【書 名】下町の古本屋
【著 者】青木 正美
【発行所】日本古書通信社
【発行日】1994/9/15
【ISBN 】4-87030-962-9
【価 格】3500円
今時、珍しく箱に入って売られています。(この頃は箱売も全集ぐらいになりましたね。)箱には振手をしている著者の姿が写っています。振手というのは古本屋の市場で中心となる人物です。
店で客から買い取った本で、自分の店では売れそうにないものを売ったり、自分の店に合いそうなものを仕入れるために業者の市が決められた日に開かれます。その入札に振りという形があり、業者が車座になって、その真ん中に振手が座ります。
本を持って、「芥川の初版本だよ。千から行こか」と声をかけます。「千三百」「千五百」「千七百」と次々に業者から声が出ます。「千七百、千七百もう声ないか。じゃ千七百で○○書房さん」と言って本が空中を飛び、その業者の目の前にパタッと落ちます。(この名人芸ができるまでには相当の年期がいります)
本の投げ方もそうですが第一本の知識がないと駄目、相場がわかってないと駄目ということで、この振手になるのは相当の修行がいります。
さて青木氏は堀切(葛飾)で古本屋を1957年に開業し、以来ずっと下町の古本屋を続けておられます。努力家で明治古典会に入って古典の勉強をしたり、藤村の自筆物、日記の蒐集でも有名な方です。
東京の下町の古本屋業界の歴史の話などなかなか興味深いものがあります。建場周りなんかは新しく古本屋になった人は知らないでしょうね。建場というのは昔のチリガミ交換が物を持ち込んだ問屋でして、ここに時たまとんでもない本が出る場合があり、昔の古本屋はよくそこに買い出しにいったそうです。青木氏も駆け出しの頃、行きましたが、当然すでに別の古本屋が入っており、「島あらしはやめといてんか」と言われる始末でした。その業者が振手をやっているので、では市場のある日はその業者は建場に来ていないと買い出しにいった苦労話なども載っています。
重い本を自転車にゆわえつけて市場に持っていったり、客の所へ買い出しに行ったり、娯楽が映画の次が本であった古き良き時代の話ですね。
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